先日、Designship Challengeというコンテストが開催されていて、最近仕事の量が落ち着いてきているのと、何かにチャレンジして新しい経験を得たい、スキルアップをしたいという気持ちがあったので、こういうコンテストは久しぶりで緊張しつつも参加することにしました。完全に後日談になるので、ここからは制作からの過程を書いていこうと思います。
コンテストは大きく分けて3つの部門、さらにその中の6つのお題から形成されていて、自分は「この時代にオープンするホテルのVI」を選びました。なぜこのテーマを選んだのかというと、ここ数年仕事として取り組む頻度の多いVIというものに対して、もっと精度を上げていきたい、思考を深めたい、という気持ちがあったから。最初はホテルのVIは全く未知の世界なのでどうなるのか分からない部分があったけど、そこは取り組んでみないと分からないなぁと思いました。
「ホテル」というと、インドア派の自分からは縁が遠い存在のように思えるので、自分とテーマの距離を近づけたくて、舞台を地元に設定した。もともと地元と関わるデザインがしたいし、自分のこととして捉えた方が上手くデザインに取り組める気がした。後から投稿された作品を見て思ったのだけれど、舞台を地元に設定している人が多くて、なんだか自分だけではないような安心感があった。
今回はロゴのデザインというよりも、ホテルのコンセプトや方向性を決めるのに時間がかかり、ほぼその作業に時間を費やしていた。そのおかげでロゴに関してはスルッとアイデアが出てきた気がする。とはいえロゴの最終案を決めるまでには時間がかかり、提出ギリギリまで細かい調整を繰り返していた。




実は7年前にもあるコンテストに作品を提出していて、その時も1時間前くらいまで粘っていた。元々要領が悪いのもあるのだけれど、経験で言うとギリギリまで踏ん張っていた方が納得のいくものが出来る気がしている。ギリギリまで踏ん張らないと納得のいくものが出来ないのが問題といえばそうですが…。
今回はVIに加えて、任意であるサイン計画にもチャレンジした。サインデザインは今まで全くチャレンジしたことがなくて、未知の世界すぎる上にお作法も分からないので、とにかくリサーチをするしかなく、過去に自分が行った施設や、日本サインデザイン協会のサイト(毎年開催されているアワードなどのページなど)をひたすら見て、サインデザインという世界のルールや、見識を出来る限りインプットしていきました。「サインデザインをやりたい」というより、ロゴのラフと一緒に施設のイメージもスケッチしていて、その段階で出てきたアイデアをサインに落とし込みたいなと思っていたので、過程としてはスムーズでした。
そんなこんなで、今の自分としてやれることは全てやって、投稿用の文章も書いて、もうこれ以上は無理だな!と思って投稿ボタンを押した。提出時間ギリギリだったけど、その後から怒涛の投稿ラッシュで、素敵な作品が次々と上がってきたのでどんどん自信がなくなっていった。やれることはやったけど、どうしても自分と違う切り口のデザインを見ると、ああそういうアイデアもあったのか、と思ったりした。そして投稿が締め切られ、あとは結果を待つのみになった。
Designship Challengeに、コロナ禍の時代にオープンする架空のホテルのVIのテーマで参加してみました!地元を架空の立地の場所に設定していて、わりと本気で実現すればいいなと思って作ったので、良ければ見てみてください🙏🏻
— kewpie (@kewpie_design) 2020年11月3日
あやのさとhttps://t.co/VA8uoM5xUg#デザインシップチャレンジ pic.twitter.com/tLbCFCbLUN
そして昨日。なぜか朝から子ダヌキが庭を徘徊しており、一日の大半をタヌキを見て過ごすという妙な日になった。いや、前から居たんだろうけど…。表彰式はオンライン開催のため、動画の視聴ページを開き時間が訪れるのを待った。
18時。審査員の方々がずらりと並ぶのを画面越しに見て、一気に緊張感が増した。自分が応募したのはグラフィック部門なので、グラフィック部門の審査員である有馬トモユキさんがお話されているのを見て、ああもう絶対無理だな…と思った。有馬さんは個人的にお仕事を昔から拝見させていただいていて、考え方がすごく素敵なデザイナーさんだと思っていたので、そんな方に自分の作品を見ていただいたのかと思うと恐れ多すぎて「無理では?」という気持ちになった。他の審査員の方々もひたすら豪華であり、自分が喋るわけでもないのにとにかく緊張した。
そして発表が近づいて作品がスライドに登場し始めた時、あまりの緊張で画面を直視できなくなった。大賞の作品が発表された瞬間、「この作品なんだ!」という気持ちと同時に、「ああ、終わった」と思った。なぜか自分の中のコンテストはその時終わっていて、その瞬間に客観的な目線に切り替わった。そのまま表彰式を見続けていて、なるほどそういう観点で審査をされたのか〜などと思っていると、「企業賞」という言葉が聞こえてきた。部門の大賞・審査員賞の他に企業賞があることを、なぜか完全に忘れ去っていた。でも、「あ〜これも無理だろうな」と早々に諦めモードに入っていたところで、「あやのさと…」というワードが聞こえてきた。自分の作品名だった。
【デザインシップチャレンジ受賞作品発表🎉】
— Cocoda! | デザインシップチャレンジ開催中! (@Cocoda_design) 2020年11月8日
STUDIO賞
あやのさと@kewpie_design さんおめでとうございます🎉#Cocoda #デザインシップチャレンジ #Designship2020extra
https://t.co/eJs3TDElnF
その瞬間、画面を直視した時の衝撃というか、産んだ我が子と対面したかのような気持ちは忘れられない。大袈裟だと思われるかもしれないけど、本当にどれにも選ばれると思っていなかった。そして、その後有馬さんのコメントが聞こえてきて、全神経が聴覚に集中した。あの、今まで一方的に拝見させていただいていた有馬さんが自分の作品について言及していて、嘘みたいだと思った。この瞬間の顔は多分、あまりにも情けなさすぎて誰にも見せられないと思う。誰も見てないのに手で顔を覆っていた。
えっ、完全に無理だろうモード入ってたので嬉しい、ありがとうございます…
— kewpie (@kewpie_design) 2020年11月8日
コメントの一字一句が「まさかそんなことを言っていただけるなんて…」という驚きの連続で、びっくりしてしまった。なんとかかんとかこの嬉しさを言葉にしてみようと思ったのだけれど、有馬さんのコメントのニュアンスや文脈を自分が変えてしまうことが恐ろしくてどうしようかと思っていたら、Twitterにイベント動画のアーカイブが残っていました。下記のツイートで時間指定して再生できるようになっているので、興味のある方はぜひ直接聞いてみてください…。(他の方の表彰のフィードバック、またDesignshipのセッション自体も大変素晴らしかったので、ご興味のある方は是非…!)
#Designship2020extra、Pariscopeでアーカイブ見れるっぽいので、有馬さんからコメントしていただいた嬉しさを共有できる…?(文字じゃニュアンスが伝わらないのでツイートするの難しいなと思っていた)😭https://t.co/HKQzzlnGoH
— kewpie (@kewpie_design) 2020年11月8日
それから表彰式は進み、全てのセッションが終わったところで、放心して抜け殻になった。賞をいただいたという事実も勿論ありがたいのだけれど、憧れのデザイナーの方に自分の作品を評価していただいたという事実が信じられず、一字一句が脳内でリフレインしていた。現実を咀嚼できず、体は疲れて早く寝たいのに脳が冴えてしまい寝つけなかった。前回のコンテストで賞をいただいた時も嬉しかったのだけれど、今回はオンラインではあるけれど直接審査員の方からのフィードバックが得られて、感激が倍増した気がする。そして、普段テキストに頼りがちではあるけれど、人の声というかニュアンスがあると、よりその重みが増すのだな、と思った。終始審査員の方々のコメントというか、言葉の選び方が素晴らしくて、一人でずっとウンウン頷いていました。
Designship Challenge、審査の対象に選ばれたみなさまもお疲れ様でした。あえておこがましいことを言うと、ぼくが一貫して今日話題にしたのは、デザインそのものの品質の話です。残念ですが、ロジックは造形の品質に貢献しません。言葉とかたち、両方を大事にしていきましょう。 #Designship2020extra
— 有馬トモユキ (@tatsdesign) 2020年11月8日
#デザインシップチャレンジ 応募してくださった皆さまありがとうございました!受賞された方々、おめでとうございます!
— 檜垣 万里子 (@mrkhgk) 2020年11月9日
はじめて審査する立場になって、賞は副産物であってほしいと思いました。アワードきっかけでデザインを考える事は良いけれど、賞のためだけにデザインするのは本質と違うなぁと https://t.co/hQJoILCyki
「ロジックは造形の品質に貢献しない」デザイナーとして常に心がけたい言葉だ... https://t.co/BDm45lWLMe
— 広野 萌 (@hajipion) 2020年11月8日
投稿した作品については、評価してくれる方もいるし、そうじゃない方もいると思うし、自分としては「自分事」として取り組んだけれど、見ている人の住んでいる場所・環境によってはそれが伝わらない部分はあって、それがデザインへの評価に繋がると思うので、正直なんともいえない部分はあります。そして全ての人に伝わるデザインを生み出すのは無理だと思っています(伝える努力はしているつもりですが…)。
ただこの期間中に本気で取り組んだということだけは事実なので、そういった姿勢でこのコンテストに臨めてよかったな、と思っています。そして自信がなくてもチャレンジすることが大事なのだなぁ、と改めて実感しました。今回の経験を通して得られたことの方が大きいので、これを糧にまた改めて気を引き締めて頑張っていきたいです。こういった機会を与えてくださったDesignship・Cocoda!の運営さま、審査をしていただいた審査員の方々・表彰をしていただいた企業のみなさま、ありがとうございました!